お客様からいただいた質問をもとに、高周波リレーの用語についてご紹介します。今回ご紹介する4つの用語は、一般用リレーとはまた違った、高周波リレーの特性を理解するために知っておきたい基本事項となりますので、ぜひ仕様を確認する際の参考にしていただければと思います。
質問:高周波リレーの仕様に「アイソレーション」や「インサーション・ロス」という用語がありますが、どういう意味でしょうか?答え:「アイソレーション」は、接点が開いている場合(OFFの状態)における、接点間の信号の漏れ度合いのことです。「インサーション・ロス」は、接点が閉じている場合(ONの状態)における信号の損失(挿入損失)のことです。どちらもdB(デシベル)で表します。 |
高周波回路には、一般用リレーではなく高周波リレーが必要です。高周波回路では、一般的なリレー特性のほかに高周波特性が要求されます。ご質問いただいた「アイソレーション」と「インサーション・ロス」に加え、高周波リレーの特性の基本事項となる用語「リターン・ロス」および「VSWR」についてもあわせて解説します。
1. アイソレーション
アイソレーションは、一般的なリレーの絶縁抵抗に相当します。高周波においては接点が開いているときにも、接点間で信号の漏れが発生します。アイソレーションは、この意図しない信号の漏れの程度を指し、入力電力「Pin」と漏えい電力(出力電力)「Pout」の比です。dB(デシベル)を用いて表示されます。
アイソレーションの値は図1の計算式で得られます。値が大きいほど漏れが少なく、よい特性を示します。
周波数が大きくなると漏れが大きくなり、アイソレーションの値は小さくなります。
通常、アイソレーションは同極間のことをいいますが、接点構成が2cタイプ(切替接点が2つあるもの)の場合は、2接点のスイッチングを行うことが一般的なので、異極間においても、アイソレーションは重要な特性になってきます。
例)10dB=1/10の漏れ(10%の信号の漏れ)
20dB=1/102の漏れ(1%の信号の漏れ)
30dB=1/103の漏れ(0.1%の信号の漏れ)
60dB=1/106の漏れ(0.0001%の信号の漏れ)
2. インサーション・ロス
インサーション・ロスは「挿入損失」とも呼ばれ、一般的なリレーの接触抵抗に相当します。高周波においては、接点が閉じているときに、接点間で信号の損失が発生します。この信号の損失の程度をインサーション・ロスといい、こちらも入力電力「Pin」と出力電力「Pout」の比で、dB(デシベル)を用いて表示します。
インサーション・ロスの値は、図2の計算式で得られます。値が小さいほど損失が少なく、よい特性を示します。周波数が大きくなると損失が大きくなります。インサーション・ロスの値も大きくなり、効率よく作動していないことになります。
例)0.1dB=約2%の信号の損失
0.2dB=約5%の信号の損失
1.0dB=約20%の信号の損失
3. リターン・ロスについて
高周波回路においては、信号が一方向に流れるとは限りません。インピーダンスの不整合があると、信号はその地点で反射します。
インピーダンス(交流回路での抵抗のこと)の不整合は、図3と図4を水道管として例えながらご覧いただくとわかりやすいでしょう。水道管の太さ(インピーダンス)が、図4のように途中で変わると水(信号)はスムーズに流れません。信号は反射し、大きなノイズの発生源になります。このように高周波回路では、インピーダンスの整合が重要なポイントとなります。なお、一般的なリレーに反射に相当する特性はなく、高周波リレー特有のものです。
この、信号の反射の程度をリターン・ロスといい、接点ON時の入力電力「Pin」と反射電力「Pref」の比で、こちらもdB(デシベル)で表示します。
リターン・ロスの値は、図5の計算式で得られます、値が大きいほど反射が少なく、よい特性を示します。周波数が大きくなると反射が大きくなり、リターン・ロスの値は小さくなります。反射が大きくなると当然正確な信号伝達ができないので、インサーション・ロスの値が大きくなるという弊害も発生します。
例)10dB=1/10の反射(10%の信号の反射)
20dB=1/102の反射(1%の信号の反射)
30dB=1/103の反射(0.1%の信号の反射)
60dB=1/106の反射(0.0001%信号の反射)
4. VSWRについて
反射の程度を表すもうひとつの特性としてVSWRがあります。VSWRは「Voltage Standing Wave Ratio」の略であり、「電圧定在波比」とも呼ばれています。
このVSWRの値は1に近いほど反射が少なく、よい特性を示しています。周波数が大きくなると反射が大きくなり、VSWRの値は大きくなります。そして、VSWRにはリターン・ロスと図6のような関係式があります。
例)VSWR:1.1=リターン・ロス:約26dB
VSWR:1.2=リターン・ロス:約21dB
VSWR:1.5=リターン・ロス:約14dB
高周波リレーの反射の程度は、リターン・ロス、VSWRの2種類の表現を用います。
いかがでしたでしょうか。今回は、高周波リレーの特性と用語について解説しました。
一般用リレーにはない特性ですので、高周波リレーをご使用の際には、ぜひこれらの用語を参考にしていただければと思います。
今回のキーワード
- 漏れ:この場合の漏れとは、絶縁状態で本来流れることのない電流や信号のことです。
- 損失:この場合の損失とは、動力や信号として有効に利用されずに失われた電力のことです。